FEATURE
WATT/Puppyからの流れを汲むミドルクラスシステムの頂点
David A Wison の名を冠した SASHAシリーズの完成形
ウイルソン・オーディオのミドルクラスシステムは、元をたどると1985年に設計された WATTに遡ります。録音エンジニアとして、現場に可搬できるコンパクトスピーカーシステムを必要としていた David Wilson が自ら使用するモニタースピーカーとしてWATTを設計したのです。コンパクトなモニタースピーカーであったWATTは小型ゆえに、低音域に対する不満こそありましたが、その時間軸の正確性による見通しの良い音像定位により、多くの方々から販売を望む要望が寄せられ、David Wilson はWATTを販売することを決断いたしました。
その後1989年に、WATTに組み合わせるウーファーモジュールのPuppyをリリースし、「WATT/Puppy」のコンビネーションが生まれます。「WATT/Puppy」は大ベストセラーとなり、「System 5」から「System8」までの進化を遂げます。
2009年にSystem8まで進化した「WATT/Puppy」はSASHAシリーズへと飛躍します。「WATT/Puppy」はあくまで「コンパクトモニター」+「ウーファーモジュール」というスタイルを崩しておらず、「WATT」単体での使用も視野に入れた製品作りでしたが、SASHAではこの大前提を見直しました。つまり、SASHAは最初から3ウエイシステムを前提として設計全体をやり直したのです。
SASHAは2013年にSASHA 2 へと進化いたします。ウイルソン・オーディオでは、ドライバーユニット、エンクロージャーの材質や構造、クロスオーバー回路など、スピーカーを構成するすべての要素についての弛まぬ研究開発を続けていますが、SASHA 2 は誕生した2013年の時点でのウイルソン・オーディオの最新テクノロジーを製品に導入することで、さらなるダイナミックレンジと深いベースサウンドを実現。ウイルソン・オーディオのタイムドメインの正確性をさらに引き出す新たな境地に達しました。
そして、2018年に3代目のSASHAが誕生いたしました。もっとも大きな変更点は、設計者が David Wilson から、後継者の Daryl Wilson に変わったことでしょう。数年前から設計実務を担っていた Daryl が今回フルモデルチェンジされたSASHAに、2018年6月に惜しくも世を去った父 Wilson の名 (DAW: David Andrew Wilson)を冠したのは、このシステムの出発点となった先進的で野心的なモデルを30年以上も前に生み出した設計者に捧げるのにふさわしいスピーカーになったと、Daryl を中心とする設計チームが考えたからです。
まったく新しく再設計されたベースユニット
後継者である Daryl のベースユニットに対するアプローチは、基本は父の David と同じ方向ですが、Daryl の方が徹底していると言えます。ウイルソン・オーディオではエンクロージャーの共振・共鳴を嫌い、伝統的に内部損失が高く剛性が高い複合材をエンクロージャーに採用していますが、この材質とて、他の材質よりはるかに優れているものの、ウイルソンが考える理想には未だ到達していません。SASHA DAW では、従来から採用している優れたエンクロージャー材である X-Material の板厚をさらに上げ、ただでさえ共振・共鳴しにくいエンクロージャーをさらに磐石なものとしました。また、エンクロージャー内部のブレーシングを最適化し内部容積を13%以上増加。ふたつの8inch ウーファードライバーはあえて軽量な振動系を採用していますが、強靭なエンクロージャーと十分な内容積を従え、深いベースサウンドを驚くべき軽やかさで再生可能にしています。
ON TIME
SASHA DAW では「WATT/Puppy」からの伝統で、ツイーターとミッドレンジを収めるアッパーモジュールをベースユニットから独立させています。アッパーモジュールは、リスニングポイントの高さと距離に応じて最適に前後位置と角度をアジャストすることにより、リスニングポイントでのタイムアライメントを最適化させることができます。すべてのドライバーユニットからの到達時間をコントロールすることこそが、サウンドのリアリティを高めることを可能にします。